大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1384号 判決 1963年11月30日
控訴人 紺井五郎
被控訴人 伊藤市造
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し大阪市南区高津町一〇番丁一九番地の二〇地上家屋番号同町六〇番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二六坪二合二勺、二階坪二一坪一合三勺の建物(大阪法務局昭和二七年九月一二日受付第一七一八六号)を以てした控訴人名義の所有権保存登記の登記簿上では右地番は分割前の「一九番地」となつている)について大阪法務局昭和二六年三月六日受付第四七七五号を以て同地上家屋番号同町九七番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二七坪八合、二階坪二一坪二合の建物としてなした被控訴人名義の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人は控訴人に対し右建物を明渡し、且つ昭和二四年一月一日以降右明渡済にいたるまで一ケ月金二万円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、被控訴人は主文第一、二項同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および認否は左記<省略>に附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。
理由
一、大阪市南区高津町拾番丁一九番地ノ二〇(成立に争のない甲第三号証、乙第二号証によれば旧地番は「一九番地ノ一」であつたが、昭和二五年一月二七日分筆の結果「一九番地ノ二〇」となつたことが認められる。)地上に本件係争建物が存在し、右建物について、控訴人が大阪法務局昭和二七年九月一二日受付第一七一八六号を以て同町一九番地上家屋番号同町第六〇番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二六坪二合二勺、二階坪二一坪一合三勺の建物として控訴人名義の所有権保存登記をなし、被控訴人が大阪法務局昭和二六年三月六日受付第四七七五号を以て同町一九番の二〇地上家屋番号同町第九七番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二七坪八合、二階坪二一坪二合の建物として被控訴人名義の所有権保存登記をなしていることは当事者間に争がない事実である。
二、まず、本件係争建物について上棟状態の未完成の建物にまで建築工事を進行せしめた当事者間の契約関係を検討すると、各成立に争のない甲第三号証、甲第一六号証の一、二、乙第四号証の一、二、同第一四号証、被控訴人作成の送り状の部分は原審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)により、訴外蛯名喜正作製の受領証の部分は原審証人蛯名喜正の証言(第二回)により各真正に成立したと認める乙第五号証の一、高野索道株式会社作成の貨物受領書、被控訴人作成の送り状及び西川組回槽店作成の寸検表は原審における被控訴本人尋問の結果(第二回)により、訴外蛯名喜正作成の受領証の部分は原審証人蛯名喜正の証言(第二回)により各真正に成立したと認める乙第五号証の二、当審証人蛯名喜正の証言(第二回)により原本の存在並にその成立を認めうべき乙第一六号証の一、二(本件建物の上棟時の御幣の写真)に原審証人柴田忠雄(第一、二回)、原審証人山田重信、同佐藤清一、同和泉貞雄、原審並に当審証人蛯名喜正(各第一、二回)、原審証人松田猛当審証人堀光三郎の各証言、原審における控訴本人尋問の結果(第一、二回)及び同被控訴本人尋問の結果(第一、二回)を綜合すれば、被控訴人は昭和二三年当時和歌山県高野山に居住し、訴外東洋木材株式会社の高野山出張所長として払下古材の購入、木材の伐採などに従事していたが、高野山金剛峰寺当局より銘木を含む建築用木材を割安で譲りうけ、建築用木材約二〇〇石乃至二五〇石を貯蔵しており、金剛峰寺当局より高野山関係者の大阪市における宿泊所の便宜を計つてほしいとの意向も示されたので、右建築用木材の半分を以て建築資材とし、他の半分は売却処分すれば優に建築資金としてまかないうるから、大阪市内において金剛峰寺当局の意向に添つた建物を建築しようと計画していたところ、控訴人は大阪市において東洋木材株式会社の子会社である三欣木材株式会社の代表取締役として勤務しており、被控訴人とは多年親交の間柄にあつて、建築業務にも精通していたので、被控訴人は昭和二三年一月控訴人に対し、右計画を打明け、被控訴人が高野山に居住して大阪に常駐することができないところから敷地の物色、建築用木材の運搬、建築資金をうるための木材の売却処分等について協力を求めたこと、控訴人は被控訴人の右計画を了とし、協力を約して同年一月一七日訴外山田重信より控訴人名義を以て大阪市南区高津町拾番丁一九番地ノ一宅地三五坪二合を賃借し、(この土地は当時は訴外竹島ゲンの所有であり、山田は賃借人であつた。その後昭和二六年末頃訴外能口好男がこれを買受け被控訴人は同人より賃借した。)権利金三五、〇〇〇円を支払い(その後被控訴人は控訴人に対し右権利金及び地代の一部として現金五〇、〇〇〇円を支払つた。)、ついで当時控訴人の取引先に出入していた建築請負業者訴外蛯名喜正に対し、「高野山にいる友人(被控訴人)が家を建ててほしいとのことで頼むのだが、建築請負代金は金一五〇、〇〇〇円位で建坪延四〇坪の二階建の寮を建ててほしい」と申入れたところ、右蛯名喜正は右申入れを承諾し、大工佐藤清一を使用して右土地上の建築基礎工事に着手したこと、被控訴人は右基礎工事中来阪し、控訴人の紹介により右蛯名喜正を識つたので、同人に対し被控訴人が建築主として建築資材を提供することを告げたところ、その後同訴外人は被控訴人の貯蔵木材を検分するため高野山に赴き、その際被控訴人より貯蔵木材は二戸分に相当するから一戸分を控訴人に依頼して売却処分し、請負代金その他建築資金に充当する旨を告げられたこと、当時の建築法規によれば、戦災者名義を以て建築許可申請をするを便宜としたから、同年一月控訴人被控訴人は東洋木材株式会社に勤務していた訴外松田猛の義弟であつて戦災者である訴外柴田忠雄に対し、同人名義を以て建築許可申請をすることを依頼し、同人の承諾をえたので、同人名義で昭和二三年二月二三日付第三〇九七号を以て建設院より二戸一棟の臨時建築等制限規則による許可をうけ、同日大阪府知事より建築許可をうけた(訴外柴田忠雄名義で右各建築許可をうけたことは当事者間に争がない。)こと、被控訴人は建築基礎工事が完了したので貯蔵の建築資材を搬出することとなつたが、控訴人より三欣木材株式会社北営業所に送付されたいとの要請があつたので、同営業所長和泉貞雄に対し事前に連絡し、同年五月頃貨車二台分の檜、槇の柱材など約一三〇石を高野山より大阪汐見駅まで汽車で搬出し、同所より右会社北営業所までは控訴人の自動車を使用して送付し、ついで自動車一台分の樅、槇、杉の板材など二〇石その他を高野山より右会社北営業所に控訴人の自動車を使用して送付したところ、訴外蛯名喜正は大工佐藤清一を使用して右会社北営業所において右建築用木材の一部を加工し、これを建築現場に運搬して大工関係の棟上の状態にまで建築工事を進めたので、同年六月三日被控訴人の主催で上棟式を挙行し、その際被控訴人は右蛯名喜正に対し請負代金の一部として金五〇、〇〇〇円を支払つたこと。その後被控訴人は前同様汽車、控訴人の自動車によつて、同年六月頃貨車一台分の檜材など約四〇石を建築現場に送付し同年七月頃自動車一台分の床柱、床板など約九石と天井板を一部は建築現場、一部は前記会社北営業所に送付したが、被控訴人の送付した木材は当事者が当初期待したとおりには売却処分することができず、そのため訴外蛯名喜正に対する請負代金の支払も控訴人より若干の金員が支払われたのみで、その余の支払に支障をきたし、右蛯名喜正は、同年六月二八日福井市の大地震が発生した後間もなく、上棟状態の建物に天井、床張りの工事を一部なし、まだ荒壁もできていない未完成の状態で建築工事を放擲して福井市に赴いたことを認めることができる。原審証人和泉貞雄、同奥谷格治、同日野谷大吉の各証言、同控訴人、被控訴人各本人尋問の結果(いずれも第一、二回)中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すにたる証拠はない。
三、控訴人は、控訴人、被控訴人が昭和二三年一月共同して両名共有の旅館用建物を建築する旨の組合契約を締結し、両名共同して未完成の上棟状態の建物にまで建築を進行せしめたと主張するけれども、右主張に一部符合する原審における控訴本人尋問の結果(第一、二回)は採用できない。もつとも、控訴人は被控訴人より本件係争建物の建築計画を打明けられてこれに協力を約し、敷地を訴外山田重信より賃借して提供し、被控訴人の代理人となつて訴外蛯名喜正との間に請負契約を締結し、建築用木材の運搬、建築許可申請等に協力した関係は前認定のとおりであるが、右は控訴人が被控訴人と本件係争建物を建築完成することを共同事業の目的として、賃借権、労務を出資した関係ではないから、控訴人主張の組合契約を認定する資料とはなしがたい。その他前段認定を覆して控訴人主張の組合契約が成立したことを認めるにたる証拠はない。そうすると、右未完成の上棟状態の建物は被控訴人が建築資材を提供し、建築請負業者蛯名喜正と請負契約を締結した結果、同人が建築したものであるから、被控訴人の所有に属するものであつて、従つて上棟状態の建物が組合財産として双方の共有に属していたことを前提とし、昭和二三年七月控訴人、被控訴人が組合契約を合意解除し、被控訴人において共有持分権を放棄したので、上棟状態の未完成建物は控訴人の単独所有となり、以後控訴人において建築完成したから、控訴人が本件係争建物の所有権を取得したとする控訴人の主張は、既に前提において理由を欠き失当たるを免れない。
四、次に控訴人は、上棟状態の未完成建物が被控訴人の単独所有に属するとしても、その後控訴人において建築資材、建築資金を負担して建築完成したから、附合の法理により控訴人が本件係争建物の所有権を取得したと主張する。未完成の上棟状態の建物が動産の領域を脱し、独立の建物として不動産の部類に入るならば、控訴人がこれに従として附合させた建築資材は、上棟状態の未完成建物の所有者である被控訴人がその所有権を取得すること明らかであるから、控訴人の右主張は上棟状態の未完成建物を動産とし動産の附合に関する民法第二四三条の規定を援用するものと解すべきところ、前記認定のとおり上棟状態の未完成建物は、被控訴人が建築資材を提供し、請負業者訴外蛯名喜正と建築請負契約を締結した結果、同人の建築工事により建築されたもので、被控訴人の所有に属することは明らかであり、また本件係争建物は住宅用として計画されたものであつて、右蛯名喜正が建築工事を放擲した当時における建物の状況は、上棟状態の建物に天井床張りの工事を一部なし、まだ荒壁もできていない段階にあつたのであるから、動産の領域に属し到底独立の建物と称しえないこと明らかである。そこで上棟状態の未完成建物が建築完成された経過を検討すると、前記甲第一六号証の一、二、乙第四号証の一、二、乙第五号証の二、官署作成部分は成立に争がなくその余の部分については原審証人柴田忠雄の証言(第二回)と同控訴人本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したと認める甲第八号証の一、成立に争のない甲第八号証の二、原審証人藤本巖の証言により真正に成立したと認める乙第五号証の三、原審証人佐藤清一、同富山英雄、同藤本巖同日野谷大吉の各証言及び原審における控訴人、被控訴人各本人尋問の結果(いずれも第一、二回)によれば、被控訴人は、訴外蛯名喜正が上棟状態の建物のまま建築工事を放擲して福井市に赴いたので、控訴人に対し建築工事の続行を依頼したところ控訴人より建築資金に充当するためさらに建築用木材の送付方要請があつたので、昭和二三年八月頃控訴人の自動車を使用して原木八六石を三欣木材株式会社小林出張所に送付し、一、二等材だけで約金一二〇、〇〇〇円で売却したが、被控訴人としてはさらに建築資金を出捐する資金的余裕がないところから、その後はもつぱら控訴人において建築資材の不足分大工賃その他建築資金を負担して、かねて訴外蛯名喜正の許で働いていた大工佐藤清一を指揮監督し、本件係争建物につき瓦は控訴人において日野谷大吉より譲受け、床の間、玄関の天井、廊下の床板張りなどができないだけで殆ど完成に近いまで建築工事を進めたこと、その頃大阪府建築課より、建築名義人が実質的施工者と異る訴外柴田忠雄であり、二戸一棟の建築許可をうけながら一戸一棟の建物を建築していたところから、工事中止の命令をうけたので、控訴人は建築名義人を擅に控訴人名義に変更し、一戸一棟に設計変更の上同年八月三一日建設院より臨時建築等制限規則による許可をうけ同日大阪府知事より建築許可をうけたこと(建築名義人を控訴人に変更して右各許可をうけたことは当事者間に争がない)被控訴人はさらに建築資金を調達する余裕がなく、被控訴人の送付した木材は当初期待したとおりには売却処分できないところから、控訴人は営業不振の折柄建築資金を捻出し、経済的苦境に逢着したので、同年八月下旬から九月上旬にかけて控訴人、被控訴人は本件係争建物を建築完成の上売却処分して出捐額を精算することに協議決定したこと、そこで控訴人は大工富山英雄を雇傭して本件建物の未完成部分(床柱をつけ、玄関の天井張、廊下の床張り、階段造等)の残工事(但し建具類は別)をなさしめ、結局同年一〇月頃木造瓦葺二階建一棟一戸建築面積八七、八九平方メートル、延面積一五八、二七六平方メートルの本件係争建物を建築完成したことを各認めることができ、原審証人藤本巖の証言及び同控訴本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。なお成立に争のない甲第一七号証には控訴人の本件建築における出資として多額の記載がなされているけれども、これを裏付ける証拠を欠き右記載が全部真実控訴人自らの出捐による本件建築のための出資であるとは容易に認めることができず、他にたやすく信用することのできない原審控訴本人尋問の結果(第一、二回)の外、控訴人の右出資を確認するに足る証拠もない。前認定の事実関係の下においては本件建物が上棟状態に達した後大工佐藤清一により床の間、玄関の天井、廊下の床張などを残し、殆ど完成に近いまでに工事を進められたのであるからその後本件建物を更に完成の上売却処分して出捐額を清算することを当事者間において協定した当時においては、既に本件建物は屋根周壁を備え、不動産として独立の存在を有していたこと明かである。してみれば右協議決定当時における不動産としての本件建物は、前認定の如く本件工事の施主であり、上棟状態における所有者であつた被控訴人の所有に属すると認めるを相当とし、控訴人の所有とは認められない。
けだし(一)動産が附合して一個の建物となるとき附合の法理よりいえばその合成物たる本件建物の所有権は主たる動産すなわち、上棟状態における建物の所有者に属すべく、民法第二四三条にいわゆる主従の区別は第一次には物の性質により、物の性質により難いときは価格により決すべきところ、本件においては物の性質上、上棟状態における未完成建物を以て主たる動産と解すべきであるから、たとえ控訴人においてその後資金の一部を立替え、資材の一部を提供したとしても被控訴人が上棟状態における未完成の本件建物についての所有権を放棄し、又は爾後の合成物は控訴人の所有とすることを特約した等の特別の事情の認められない本件においてはその後これに瓦葺、壁、廊下、天井の一部、床板張りの一部等の建築資材が附合して取引観念上独立の不動産(建物)となつた場合合成物たる本件建物は主たる動産すなわち上棟状態の建物の所有者たる被控訴人の原始取得する所となるものといわねばならない。(二)もつとも右建物が不動産として独立の権利客体たるに至つた過程については右附合が加工により生じた場合であるから加工の法規の適用の有無が問題となるべき場合であると思料される。本件においては本来この法理は適用すべき限りでないこと後述の通りであるが、仮にこの法理を適用するとの前提に立てば、本件では控訴人が材料の一部を供したこと前認定の通りであるから民法第二四六条第二項の適用の有無が問題となるところ、この規定の適用あるがためには加工者(仮に控訴人がこれに該当するとしても)の供した材料の価格(A)と加工者の工作によつて生じた価格(B)との和が他人(被控訴人)の材料の価格(C)(本件では上棟を終り蛯名が手を引いた被控訴人所有の建築中の建物の価格)を超える場合すなわちA+B>Cなる場合でなければならぬところ、鑑定人広瀬久治郎の鑑定の結果や成立に争のない甲第一七号証(同号証の必しも全面的に措信せられないことは前記のとおり)その他全証拠によるも右A、B、Cの夫々の価格を明かにすることができず、却つて証人蛯名喜正の原審第一回、当審第二回各証言及びこれにより成立を認めることの出来る乙第五号証の一のCに原審証人富山英雄の証言を綜合すれば蛯名は上棟式終了後もなお一ケ月位本件建築工事を続けていたものでそのなした工事は費用の点からみて少くとも全体の五割以上(蛯名の証言によれば約八割)に達するものである事実を認めることができ、これはすべて前記Cの価格の内容をなすものであるから前記A+B>Cの関係が成立するとは到底認められない。(三)のみならず、前記認定の蛯名が手を引いてからの後大工佐藤が本件建築工事を進行していた当時の控訴人被控訴人間の契約関係は当初蛯名が関与していた当時すなわち被控訴人が施主で蛯名が請負人たる関係に対し蛯名と佐藤が入替つただけで前後変りがないから、控訴人が右佐藤との間にいくらかの出費をなしたとしても自ら加工者として行動したものでなく、それは被控訴人の事務を処理したものにすぎない関係であり、委任乃至事務管理の規定に基き出資の弁償を求めるのは格別前記民法加工の規定を援用すべき限りでない。けだし、一般に添付については復旧請求権を認めない点は強行規定であるが、所有権の帰属や、償金請求権に関する規定は任意規定であるから添付という事実について当事者はこれらの点について特約をすることができ(労働者の生産活動による製作物は当事者の合意により雇主に帰属するものと解せられる)、前記認定の事実関係の下においては、本件建築着工にいたる経緯、当事者の契約関係からみて、出来た建物は被控訴人の所有とする趣旨であつたものと解すべくその後、上棟式を経て不動産となつた本件建物について、更に残工事をなし竣工の上、売却処分して清算する旨の右協議決定がなされるまで右契約関係を変更したものとは認められず、また右協議決定によるも相互の従前の出捐を清算する方法として爾後の残工事を控訴人の手によりなし、竣工の上はこれを売却して清算する方針をきめたにすぎないからである。
更に右協議決定後前認定のとおり控訴人において大工富山英雄を使役して右建物に天井を張り床柱をつけ廊下階段造りをしてこれを竣工せしめた当時においては、控訴人は既に擅に建築名義人を自己に切替えているとはいえ右約旨により残工事をなしたまでで、右残工事により新物が生じたものでなく、既に不動産たる建物に工作を加えたに止まるから動産加工の法理を適用する余地なく、右残工事に控訴人の資材の一部が用いられていても、不動産の附合として本件竣工建物の所有権は被控訴人に帰属するものといわねばならない(民法第二四二条)。
以上いずれの理由によつても控訴人が本件建物の所有権を取得したことは認められないから、控訴人が本件建物の所有権を取得したことを前提とする控訴人の被控訴人に対する本件建物についての(一)被控訴人名義の所有権保存登記の抹消登記手続並に(二)明渡及び(三)賃料相当損害金の各請求はいずれも爾余の判断をなすまでもなく、失当として棄却を免れない。よつてこれと同旨に出た原判決は相当で本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却し訴訟費用につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宅間達彦 増田幸次郎 井上三郎)